医療者が患者から健康観を引き出せない本当の理由
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医療者が患者から健康観を引き出せない本当の理由

2016/09/06

00.blog, 04.コミュニケーション

こんにちは、和泉ワークショップデザイン事務所の和泉です。

今日は医療者が患者から健康観を引き出せない本当の理由というテーマで書きたいと思います。

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僕は立場上、色々な医療者の方からお話を聴いたり、相談に乗らせて頂いたりすることがあるのですが、今日はその中でも実際にあったご相談を1つ取り上げてみたいと思います。

 

ご相談者:医師Aさん(3年目)

■患者が持つ希望(医療者にこうしてほしい)や健康観(患者はどんな状態を健康と捉えているのか)などを上手に引き出したいのだが、なかなかうまくいかない。

■質問しようにも、どういう問いかけ方がベストか分からないし、そもそも業務時間内でそれを聞き出すには時間が掛かりすぎて、なかなか難しい。時間の無さに追われて、そういうことを十分聴き出せないまま退院していく患者もいる。

■どうすれば患者がもつ希望や健康観を上手く聞き出せるような質問ができるのか?

 

まぁざっくり言うとこんな内容のお話でした。

 

ほうほうなるほどと思い、最初は求められるままにヒアリング中における質問の仕方や、質問の種類について軽く雑談感覚でお話することから始めました。

 

それこそ一般的な「閉じられた質問(クローズ)」「開かれた質問(オープン)」「中立的な質問(ニュートラル)」についてや、「5W1Hを用いた質問」「過去・現在・未来についての質問」「意見・価値観・原体験・感情にフォーカスを当てていく質問」など、色々なやり方があるよねーと。

 

『A先生は普段どんな質問の仕方をしてるんですか?』

『そもそも、A先生の中で”質問”と”問い”の違いってどう捉えてますか?』

 

みたいな質問もしつつ、話を掘り下げていったのですが、なかなかどうにも手応えが微妙な感じ。

 

 

そういう時間が少し続いた後で、ふとこんな質問をぶつけてみました。

 

『逆にA先生が、「自分いま健康だわぁ〜」と感じる瞬間って、どんな瞬間ですか?』と。

 

するとA先生、若干表情が硬くなり、腕組しながらん〜と少し唸りつつ、沈黙。

その後顔を上げ、苦笑いでこう言いました。

 

正直、その質問(健康観について)に対して自分がちゃんと答えられないから、モヤモヤしてる部分もあるんですよねぇ…。

 

 

■自分の中で問えていないことは、人にも問えない

 

今回のケースでいうと、最初A先生は、患者から健康観をうまく引き出せない原因は「質問の仕方を知らないこと」と「十分な時間がないこと」にあると分析されていました。

 

しかしよくよく話を聴いて見ると、患者がもつ健康観について話を聴いてみようとしている先生自身が、そもそも自分にとっての健康観について十分に考えを深められていなかったのです。

 

それでは、自信をもって患者に問いを投げかけられないのは当たり前です。

人は、自分の中で問えていないことは、他者にも問えないのです。

 

逆に問いかけたところで、薄っぺらい会話になって終わります。

 

また会話の途中で『そういうA先生は健康観についてどうお考えなんですか?』と患者に問われた日には、冷や汗かきまくりのタジタジ状態になってしまい、医師としての信頼がどーんと下がってしまうことが目に見えています。

(「この先生、私に健康観について聴いといて、自分では考えたことないのかよ…」とドン引かれる)

 

 

 

■患者に聴く前に、まず自分の中で「健康観」について考えてみる

 

なので今回のケースでは、たとえA先生が「患者の健康観を引き出すための質問テンプレート集」などを手に入れたとしても、自らの中で健康観についてある程度仮説ができるまで思考を深められていない限り、そのテンプレート集を上手に使いこなすことはできなかったでしょう。

 

逆を言えば、もしA先生が自身の健康観について十分思考を深められているのなら、患者に対する質問の仕方も自然と導き出されるはずです。

 

自らがどんな質問で思考を深めていったのかを辿っていけば、どんな質問の仕方や問いの文言が効果的か、またこの質問の次はどんな質問を重ねれば思考はスムーズに深まっていくのか、体感覚として捉えられるようになると思います。

 

・自分が「健康」と聞いて、1番最初にイメージするものは何か?

・自分の人生の中でもっとも「健康」だった時期はいつだと捉えているのか?

・自分の中で優先順位をつけるとしたら、「健康」は何番目に大切か?

・自分にとって「身体的」「精神的」「社会的」だったらどの健康が1番重要か?

・自分が「健康の必要性」を感じるのはどんな瞬間か?

・お金を出して健康が買えるとしたら、いくらまで払うか?

・むしろ健康とは本当に重要なのか?健康でなくても幸せに生きれる道はないのか?

 

などなど。1つ問い始めれば、問いは数珠繋がりで無限に生まれてきます。

 

イメージ的には、思考を深めたり本質を引き出すために有効な問いかけとは何か、自分自身を使って実験する感覚です。

 

 

 

■これからの時代、医療者自身が健康観を深めていることは必須となる

 

詳しくは今度ブログに書きますが、家庭医の領域では「患者中心の医療の方法(PCCM:patient centered clinical method)」という理論があり、そのモデルが2014年に改変されました。

 

今後はPCCMの実践には「illness(病い)」と「disease(疾患)」に加え、新たに「health(健康観)」という「患者が持つ健康についての認識・経験(健康観)」という項目が加わり、『それら3つを統合した状態で患者を捉えていくことが重要だよね』という方針へシフトしたようです。

 

こちらの改訂版はまだ日本語訳で出版されていないらしく、日本の医療現場にはまさにこれから浸透し始めていくフェーズだと思われます。

 

 

今後医療者が患者に「あなたにとって健康とはどのようなものですか?」「健康に関しての希望や目標はありますか?」を聴いていくことが当たり前になるということは、すなわち医療者にとってもその問いと向き合うことが必須になる。そういう未来が近いうち必ず訪れるということです。

 

そうした時に、どのようにして医療者が自身の健康観に対して思考を深めていくのか、忙しい現場の中でどうすればそのような機会や場が効果的に設計できるのか。

 

またそれについて思考を深める行為が医療学生の時代から必要だとしたらどのようなカリキュラム変更が必要になってくるのかなど、今後はさらに多くの変化について検討していく必要性がありそうです。

 

 

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